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熊にパンチは効くか?ヒトのパンチの威力を見る【ゴールデンカムイ】

ゴールデンカムイ
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マンガの中で熊との戦闘描写があるものは結構ありますが、その中で現実的な描写を交えて、熊の耐久力について考察しました。
ゴールデンカムイの第2話で、杉元は突然目の前に現れたヒグマの顔に正拳突きを放ちます。ヒグマの左目のやや下の辺りに「ドゴォッ」と直撃していますが…
杉元「効く訳ねえか」
ヒトのパンチの威力と熊の耐久性、実際の撃退例を交えて見ていきます。

ゴールデンカムイ第1巻第2話

ヒグマの耐久力を考察

万が一襲われたときに反撃したとして、熊相手にダメージは通るのか、その耐久スペックを見てみます。

杉元が戦ったヒグマは300kg越え?

杉元が対峙したのはオスのヒグマです。
オスの個体は、体長約1.9~2.3m 体重約120~250kgくらいと言われますが、非常に大きな個体も存在します。
近年の記録に残されている最大の個体では、体重が520kgのオス(2007年、えりも町 推定17歳)2019年から2023年6月までに推定66頭の牛を襲ったヒグマ「OSO18」は体長2m10㎝体重330kg
三毛別羆事件のヒグマは350kgと記録されています。

2015年に紋別市で駆除されたヒグマの体長が2.8m、体重400kgと報じられてますので、ヒトとの大きさの対比から、このヒグマレベルの巨体ではないかと推察されます。
ただ、このヒグマはかなり太っているので、冬眠に失敗したヒグマはこれより痩せているのではないでしょうか?

ヒグマ400kg
2015年紋別市 佐藤常男さん撮影

フサフサな毛皮に分厚い脂肪、これだけでかなりの衝撃が吸収されてしまいます。

ヒグマの頭部は銃弾も弾く

ヒグマの頭部は非常に固いため、銃で撃っても頭骨にはじかれるか、外側の肉を削ぐだけで致命傷にはならず、下手に撃った人は確実に殺されてしまうと言われています。
もっとも、固いために銃弾が弾かれるというよりは、滑らかな頭骨の形状から角度が浅いと弾かれてしまうためです。骨の強度による耐弾性という話であれば、ライフル銃ならいくら骨が固くとも易々とぶち抜きますが、正面を向いた熊の頭骨は角度的に弾が入りにくい構造です。
警察官の拳銃(ニュー南部やエアウェイト、サクラ)では全然ダメージを与えられないです。上手く目に当てたり、全弾心臓にピンポイントで命中すれば別ですが…。
猟師は熊の頭を狙いません。ゴールデンカムイの作中でも、「アイヌはヒグマを狩るときに頭を狙わない」とするシーンがありますが、その経験から共通の答えにたどり着いているようです。

暴れたために矢が頭に当たるが弾かれる
ゴールデンカムイ第1巻第2話

写真のとおり、杉元が殴った眼の下あたりは、分厚い骨で固められ、さらにその上に固い肉と体毛で覆われているため、非常に防御力が高いことがうかがえます。
また、この写真の頭蓋骨はメスです。オスの個体はもっと大きいものとなります。

ヒトのパンチの威力はどのくらいか?

単に「威力」といっても曖昧ですが、ここではパンチによる「衝撃力」が、ヒグマを怯ませるほどのダメージを発生させる可能性があるのか、可視化しやすい数値で表すこととします。

パンチ力を計算式で評価できるか?

「パンチの威力」を運動エネルギーの高さで評価してみます。
運動エネルギー:運動している物体が、「別の物体に衝突して仕事をすることが出来る能力」
そして運動エネルギーは次の公式で求められます。
運動エネルギー = 1/2 × 質量 × 速さ × 速さ
これを根拠にパンチ力を求めたいところですが、パンチに全体重が乗る訳でもなければ拳の質量だけが飛んでくるわけでもなく、最終的に威力が残る割合を考慮しなければいけません。
仮にざっくりとこんな感じで見て見ます
パンチ力= 1/2 × 体重 × パンチの速さ × パンチの速さ × 威力が残る割合

拳に乗る体重の割合は 約30〜40%

ジャブなどのパンチの種類や個人の技量差で当然体重が乗る割合は変わってきますが、理想的な正拳突きでも最大で体重の40%くらいが拳に乗ると言われています。

観点内容
🔬 スポーツバイオメカニクスの研究多くの研究で「拳に伝わる衝撃力は、体重の約30〜40%程度の質量が移動した結果」と分析されている。
🥋 空手やボクシングの計測例正拳突きやストレートパンチにおいて、体重の最大40%前後が動作に関与している例が多い。
🔻 実際にはロスが発生地面反力、姿勢制御、スイングの精度などによって、100%の体重が伝わることはまずない
🧍 静止状態からの突き足や腰の使い方が甘いと、15〜20%程度しか伝わらないこともある。

パンチの速さは約時速30km

え、そんなもの?って思ってしまいますが、具志堅用高さんが現役時代にハイスピードカメラでパンチのスピードを測定した記録があります。
5cm刻みで印をつけた目印の上を思い切りパンチを出してもらって5cmを何秒でこぶしが通過するかで計測した結果、やはり時速30km程度だったそうです。
100m走10秒は時速36kmです。
トップクラスの陸上選手が走るより遅いの?と一見思ってしまいそうです。
時速30kmは秒速8.33mです。これを拳の届く距離で考えると一瞬です。
60cm先の相手の顔面には0.072秒で到達する計算となります。
ノーモーションで繰り出されるパンチが0.072秒後には顔面に迫ると考えると、すごく早く感じます。

衝突時間の違いで威力は大きく変わる

衝突時間が 長くなると衝撃力は分散されて小さくなります。
でも同じエネルギーが伝わるので、「破壊力は減っても、押し込む力は持続する」という違いになります。
柔らかいグローブと鋼鉄のメリケンサックでは固さが違うため、衝突時間に大きな差があります。
そして同じパンチでも衝撃力は10倍以上変わる可能性があります。
例えば体重80kgの人が、拳に体重の35%を乗せた(質量28kg)理想に近いパンチで、速度もかなり早い時速27kmだったとすると、以下の表のように威力が変わってきます。

衝突時間(秒)拳の固さ衝撃力(N:ニュートン)kgf換算(kg重)
0.06秒厚手グローブ3,500 N約 357 kgf
0.04秒普通のグローブ5,250 N約 536 kgf
0.03秒軽量グローブ7,000 N約 714 kgf
0.02秒素手(平均的)10,500 N約 1,071 kgf
0.01秒硬質ナックル21,000 N約 2,143 kgf
0.005秒メリケンサック級42,000 N約 4,286 kgf

マイク・タイソンのパンチの重さは700kgとも

元ヘビー級世界王者のマイク・タイソン(現役時、体重98kg)のパンチ力は、700kgと言われています。
1tという報告もあれば、170kgという報告もあります。
結局のところ、測定方法や条件、計算式によってまちまちです。
パンチングマシーンも独自の測定方法であるため、全て同じ条件で測定しないと、数値だけをもってパンチ力世界一を決めることは出来ません。
MITの研究チームが記した「空手の物理学」によると、一般的な木の板を割るには1cm以上曲げる必要があり、木の板を割るには500ニュートンの力が必要としています。

また、コンクリートブロックは1mm曲げるだけで割れますが、1mm曲げるためには2500ニュートン~3000ニュートンの力が必要です。
そしてマイク・タイソンのパンチ力は1,600ポンドフォース(約7,120ニュートン)と報告されています。
木の板なら簡単にぶち割るし、ブロック2個くらい砕く威力に相当します。
タイソンなら出来そうな気がするので、信憑性は高いような気もします。
7,120ニュートンをkgで置き換えると、726.8kg相当といったところです。
どのような条件下で測定したかは不明ですが、軽量のグローブを付けていて、体重の3割が拳に乗って、時速27kmのパンチなら以下のようになります。

項目
拳に乗る質量29.4kg(体重の30%)
パンチ速度7.5 m/s(時速27km)
衝突時間0.03秒
パンチ力(衝撃力)7,350N​
kgf換算(重さとして)約 750 kgf(※1 kgf ≒ 9.8N)

この条件で言えば、タイソンのパンチ力が700kgといわれるのも納得できそうです。
さらに高いパンチ力の報告もありますが、ここでは世界最高峰のパンチの威力は約700㎏ということで定義します。
また、この数値は一般的な成人男性の10倍以上に相当するとも言われてます。(もっとも、一般的な成人男性のパンチ力のデータについてもまちまちですが)

岩息舞治の拳を世界トップクラスと仮定した場合

ゴールデンカムイ 岩息舞治
アニメ「ゴールデンカムイ」第26話から

ゴールデンカムイで殴り合い大好きな岩息舞治を世界トップクラスと仮定します。
チンポ先生牛山辰馬は柔道家ですし、ヒグマを投げ飛ばすなど、ひとりだけ違うマンガの世界なので、ここでは金カム最強の拳は岩息ということにしておきます。
明治時代の日本人、ましてや囚人がタイソン級なのはおかしいという指摘は置いておきます。
マンガ補正です。
正確な身長はわかりませんが、タイソンの身長180cm弱よりは岩息の方がかなり大きいように感じるため、ウェイトもかなりあるということで…。
大きなロシア人達よりも遥かに強いのですしね。

杉元のパンチ力はどのくらい?

ゴールデンカムイ スチェンカ
アニメ「ゴールデンカムイ」第26話から

岩息が一人で杉元達4人をスチェンカで圧倒していた状況や杉元との体格差を考慮して、岩息の7割くらいのパンチ力(約500kg)と想定します。
杉元の獣のような筋肉(按摩さん評価)から、筋肉の使い方が上手いということで…。根拠はありません。
大体一般男性の7倍の重さです。
中量級のプロボクサーは一般男性の5~7倍くらいとも言われます。
百戦錬磨の軍人なので多少盛っておきます。
明治時代の平均身長とかは無視しておきます。
杉元のパンチの衝撃を5,000ニュートンとした場合、人の顔面に直撃すれば顔面崩壊必至の威力ですが、ヒグマはどうか?

ゴールデンカムイ ヒグマ
アニメ「ゴールデンカムイ」第1話から

実際にパンチしたデータはありませんが、それ以上の衝撃が加わった場合を見ます。
軽トラ(850kg)が時速40kmでぶつかった時の瞬間的な衝撃力は94,000ニュートンほどになります。もちろん、ぶつかった箇所や条件で大きくかわりますが、熊との交通事故の動画などを見ると、熊も衝撃で吹き飛ぶものの、頭からの正面衝突でもない限りはすぐに立ち上がって走り去っていきます。
熊も無傷という訳にもいかなく、骨折したり、そのケガが原因で死んでしまう可能性はありますが、杉元の推定パンチ力の約20倍でも、直ちに行動不能にすることは出来ないほどの頑強さです。
ただし、50cm×50cmの面でぶつかった場合と、拳サイズの点でぶつかった場合では、かかる圧力(貫通力)が約40倍違うので、軽トラに杉元を括り付けて拳を出して熊に突っ込めば、熊に突き刺さるかもしれません。
もっとも拳の方が破裂するでしょうが。

時速60kmほどのトラックが体調1mから1.5m程度のツキノワグマにぶつかったような状況ではさすがに熊でも即死か瀕死となる可能性が高いですが、当たり方次第ではサッと立ち上がって走り去っていく場合もあります。

Youtube 事故くま@oritate tenjingura

パンチ力=ダメージとはならない

結局のところ、様々な要因で数値が変わるため、パンチ力のデータから正確なダメージを求めることは不可能です。熊の毛皮や脂肪を加味すると、人間と同じようにダメージが通る訳でもなく、さらにその下には頑強な骨があるため、実際には全くダメージを与えられません。
野生動物の体の表面って油でぬとってしてますし、拳が滑って衝撃も流れやすいでしょう。

要素説明
🔁 衝突時間の短さパンチの衝突は 0.01〜0.05秒 程度と極めて短いため、正確な測定が困難。
🧠 人体の連動性パンチには腕だけでなく、脚・腰・肩・体重移動・地面反力なども関与する。
⚡ 加速度の変化加速度は パンチ中に常に変動しているため、平均値ですら計測が難しい。
🎯 力の伝達効率拳の向き・衝突角度・相手の硬さなどで、実際に伝わる力が変わる
🧱 衝突対象の影響壁、サンドバッグ、人間など、相手の素材や動きでも結果が変わる。

とはいえ、熊を蹴って撃退した例もあります。

蹴りで撃退した事例

2024年4月25日、北海道名寄市において、藪から突然接近してきたヒグマに対し、空手経験のある50代男性が中段蹴りを放ったところ頭に命中し、熊は逃げていったとのことです。
男性は「やられるんだったら、やられる前にやろう」との思いだったそうで、「無茶苦茶固くて、鉄の塊を蹴ったようだった」と話しています。

熊も威嚇のつもりで行ったら、思わぬ反撃でびっくりして逃げていったのかもしれません。
本当に気が立っている状態のヒグマは、たとえ銃で撃っても怯まず、襲ってくる可能性が高いです。
熊には個性があると言われ、運良くビビって逃げ出すタイプであれば、不意の反撃が結果的に命を守ることになるかもしれませんが、より怒らせて最悪な結果になる可能性もあります。

共通する習性もあるがそれぞれの個性もある
ゴールデンカムイ第3巻第22話

拳と拳のぶつかり合い「スチェンカ」の話はゴールデンカムイ第15巻に。

結論

ヒグマと素手で戦うのはやめましょう。

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