クマによる人身事故が増加していますが、イノシシもキャンパーにとって、危険な野生動物です。
基本的には人間を避けようとしますが、性格としては非常に神経質で、警戒心が強い動物ですが、
不用意に近づくと攻撃をしてくることもあります。
また、慣れると大胆な行動をとるため、人間に慣れたイノシシが買い物袋などを狙って襲ってくる、ゴミを漁る、テントの周りを徘徊したり中に入るといった実害も報告されています。
令和5年度のイノシシによる人身被害人数は9月末時点で21人となっています。(環境省発表による速報値)
昨年度は81人で、うち1人はお亡くなりになっています。
令和3年度にも死者が1名出ており、決して甘く見てはいけません。
イノシシに遭遇した時、事故とならないように対処するため、イノシシの生態や対処法をについて紹介します。
イノシシの分布
日本にはニホンイノシシとリュウキュウイノシシの2亜種、ないしは八重山諸島のグループをさらに分けた3亜種が分布します。
2003年度調査で道東エリアに生息が確認されていますが、北海道からの捕獲報告により作成されたものです。
これは、飼育下由来のイノブタを捕獲したものであり、北海道ではこれまで自然環境状態でのイノシシの生息は確認されていません。
日本のイノシシはサイズが小さく、手足も短いため雪の上で移動することが難しいこともあり、雪原地帯での生息が難しいと考えられています。
しかし、近年の温暖化に伴って、東北地方におけるイノシシの生息域が拡大しています。
山形県では、100年以上にわたってイノシシの生息が確認されていませんでしたが、2002年に捕獲されて以降、各地で出没が相次いでいます。2018年度末の推定個体数は約7800頭とされ、わずか10年間で20倍近くに膨れ上がっていると推測されます。
ニホンイノシシの生態と特徴
分布
本州・四国・九州に広く分布し、常緑広葉樹林、落葉広葉樹林、水田放棄地や竹林などに生息します。
これらに隣接する水田や農耕地に出没して、作物を荒らすケースが多く、市街地に現れる場合もあります。
食物や水のある場所、茂みなど隠れるところのある場所や、人間活動の少ない場所を好みます。
食性
雑食性で基本的には何でも食べますが、多くは植物質のものを食べます。
ブナの果実であるドングリや栗の実、キノコ、柔らかい植物の新芽や根などを好んで食べます。
また、地中の芋やタケノコ、ワラビなども掘って食べます。サツマイモを掘り集め、カヤをかぶせて貯蔵することもあります。稲やサツマイモ、豆類などの農作物の被害が多く、一晩で稲が全滅された事例もあります。
ヘビやカエル、昆虫、サワガニ、ミミズなども食べます。
ミミズを探すために地面を掘り、土地が荒らされる事例があります。
市街地に出没するイノシシは生ゴミも食べます。
特徴
体長はオスが110〜170cm、メスが100〜150cm
肩高60〜90cm、尾長30〜40cm、体重80〜190kg
※岐阜市で約220kgもの雄個体が捕獲されたこともある
全身茶褐色から黒褐色の剛毛で覆われている。
指の数は前後ともに4本で、2個の蹄を持つ。雌雄共に下顎の犬歯が発達して牙状になっており、雄は特に長い。雄の牙は生後1年半ほどで確認できるようになり、半月型に曲がった形で終生成長を続け、最大で15cmほどまでになる。黒い体色に胸の白い月の輪の模様(無い個体もいる)が特徴。
身体能力
走る速さは時速45km
100mを8秒で走るということになります。
「猪突猛進」という言葉の直進しかできないというイメージは誤りで、急停止や急発進、急な方向転換もできます。
跳躍力も高く、成獣なら助走なしで1mを飛び越えます。
1.2mの柵を飛び越えたという報告もあります。
力や嚙む力も強く、鼻先で70kgの重さを持ち上げたり、指を噛みきる事故も発生しています。
積極的に水へ入ることはないが、やむを得ず川を渡るなどの事例もあり、犬かきで時速4km程度で泳ぐことも可能。30kmの距離を泳ぐことも不可能ではないという。
視力は0.1程度と言われ良くありませんが、嗅覚はイヌ並みであるとされています。
活動
一般的にイノシシは夜行性動物と言われることが多いですが、本来は昼行性です。
夜間の行動が多いのは、人間が活動している時間帯を避けるようになったためです。
警戒心が強く、餌場や寝床、水場は頻繁に変え、出来るだけ自分の行動を掴まれないように活動します。
しかし、慣れると大胆な行動を取るようになり、人間に対する警戒心が低下すると、昼間でも堂々と活動するようになります。
イヌ並みに優れる嗅覚を使って、ものの感触を探る行動をよくとります。とくに隙間や窪み、境界線といった場所を丹念に鼻で調べる習性があります。
学習能力が高く、強度の低い金網程度なら簡単に突破します。 一度学習すると半年以上記憶している言われ、「餌場」と認識すると、執拗に何度も侵入するようになります。
イノシシによる人身事故の例
2023年11月8日 広島県福山市の食品容器製造会社の敷地内にイノシシが侵入。50歳代の男性作業員の左足にイノシシの牙が当たって負傷した。駆けつけた警察官と市職員が近くで暴れるイノシシを取り押さえた。男性は病院に搬送されたが、軽傷で歩行もできるという。イノシシは体長約1.2mの雌で、体重約70kgの成獣だった。
2023年11月9日 群馬県富岡市で、警察官を含む3人がイノシシに襲われた事件が発生。罠にかかったイノシシを捕まえようとしたところ罠が外れてしまい、90代と70代の男性が重傷を負った。通報を受けて駆け付けた警察官もイノシシに襲われ、けがをしたという。
近年発生の死亡事故
- 2021年8月19日 大阪府千早赤阪村小吹の村道で、「70歳くらいの男性が道路脇の溝にはまっていて出られない。イノシシに襲われたと話している」と通行人から119番通報があった。倒れていたのは近くに住む73歳男性で、搬送先の病院で約1時間後に死亡が確認された。
富田林署によると、通行人が見つけた当初は、男性に意識はあったという。胸や足には突かれたような傷が7カ所程度あった。路上には血痕があり、男性の自転車が倒れていた。近くの畑には動物の足跡が見つかったという。 - 2021年2月12日 兵庫県洲本市池内の山林で、「友人がイノシシに襲われた」と猟友会の男性から119番通報があった。救急隊員らが駆けつけると、同じく猟友会員の79歳男性が用水路で倒れていた。男性は救急搬送されたが、死亡が確認された。
通報者が男性とともに罠にかかったイノシシを電気ショックで気絶させようとした際、イノシシが男性を襲い、左足や腕にかみついたという。男性は50mほど引きずられ、深さ約1mの用水路に転落したとみられる。
イノシシは、体長1m、体重70kgくらい。その後、消防の放水で追い払われ、山林に戻っていったという。 - 2019年1月20日 山梨県山梨市牧丘町杣口の林道で、狩猟をしていた59歳男性がイノシシに襲われた。左足などをかまれ、搬送先の病院で死亡が確認された。失血死だった。
日下部署によると、男性は仲間3人と連携して狩猟中で、シカやイノシシを待ち伏せしていた男性から「イノシシにやられた」と無線連絡があり、仲間が駆けつけると倒れていた。銃を構えているときに、背後から襲われたとみられるという。
イノシシに遭遇したときの対処法
まずは心を落ち着かせる
突然イノシシと遭遇してしまうと、驚いてパニックになると思います。
しかし、大声などでイノシシを下手に刺激してしまうと、攻撃の対象として認識される危険があります。
また、イノシシは人間の背中を見ると追いかけてくることがあるので、遭遇してすぐに走って逃げることは大変危険です。
まずは落ち着いて、イノシシへの対処方法を慎重に実行していくことが重要です。
イノシシから静かに離れる
イノシシに遭遇してしまったら、静かにその場を離れるようにしましょう。
その際に、背中を見せず、ゆっくりと後退するようにしてください。
大声をあげたり、走って逃げるなどの激しい動きでイノシシを刺激しなければ、イノシシの方から逃げていく場合がほとんどです。
イノシシが「シュー・カッカッカッ・クチャクチャクチャ」といった音を発していた場合、それらは威嚇音ですので注意をする必要があります。
イノシシへ威嚇や攻撃をしない
イノシシは本来臆病な動物です。
しかし、人間がイノシシに対して石を投げたり、大声を出すなどして刺激すると、激怒してイノシシが攻撃を仕掛けてくる可能性が高くなります。
また、イノシシが何らかの理由で興奮していたり、発情期(晩秋~冬)や分娩後で攻撃的になっていたりする可能性もあるので非常に危険です。
うり坊に近寄らない
うり坊(イノシシの子)を見かけても、絶対に接近しないようしてください。
うり坊の近くには母親がいる可能性が高く、子どもを守るために人間を攻撃してくることがあります。また、可愛いからと言って食べ物を与えることは絶対にやめましょう。
イノシシの人に対する警戒心を低下させ、人が食べ物を与えてくれるものだと学習させることに繋がるってしまい、事故を増加する要因となります。
イノシシに襲われたときは
高いところへ登る
イノシシはクマなどと違い、高いところへ登ることができません。
そのため、イノシシに襲われた場合は、背の高い木やフェンスに登ることで緊急回避することができます。
しかし、逃げた場所の高さが中途半端だと、足を噛まれる可能性があります。
イノシシの跳躍力は助走なしで1mを越えます。
動物用の催涙スプレーを使う
市販されている動物用の催涙スプレーを使用することで追い払うことが期待できます。
登山やキャンプの備えとして熊撃退スプレーなど持っていれば、イノシシに対しても効果があります。
イノシシは攻撃的になると大変危険です。
噛まれれば指や耳など失う危険性もありますし、牙の高さが丁度大腿部の高さなので、刺されば大量出血による失血死の危険性があります。
また、イノシシに限らず、野生動物は様々な細菌を身体の中に保有しています。
噛まれることで、傷口からそれらの細菌が体内へ侵入する危険性があります。
考えられる感染症としては、破傷風やパスツレラ症などが挙げられます。
傷自体が大したことなくても、これらの感染症は命に関わるので、噛まれた際は出来るだけ早く消毒し、絶対に病院へ行きましょう。
食肉としてのイノシシ
キャンプするときにたまに猪肉を買って食べたりします。
独特の歯ごたえはありますが、臭みもなく、なかなか美味しいですよ。
栄養価で特筆すべき点は、鉄分が豚肉の4倍、ビタミンB12が3倍で、筋肉や血液に嬉しい特長を持っています。
ただし、野生鳥獣は牛や豚等の家畜と異なり、飼料や健康状態等の管理が行われていないことから、人に対する病原体(ウイルス、細菌、寄生虫など)を保有している可能性が高く、食品として一定のリスクが存在します。
猪肉を食べる際には、中心部まで火が通るよう十分に加熱することが重要です。
野生鳥獣の肉(ジビエ)は、E型肝炎ウイルス、腸管出血性大腸菌、旋毛虫(トリヒナ)等の原因となり得ます。食べる前の調理の段階でも、手指の傷口から体内に感染することがありますので注意が必要です。
イノシシ肉の大和煮の缶詰やイノシシカレーはお土産コーナーでよく見かけます。
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